妊活を診断・生活習慣の観点からサポート。 ―ファミワンが取り組む課題とは?―(前編)

国立社会保障・人口問題研究所の「第15回出生動向基本調査(2015年)」によると、約6組に1組の夫婦が「妊娠に向けた活動=妊活」に取り組んでいるといわれています。しかし、妊活や不妊治療が一般的な問題であるという認知は十分ではなく、悩みや不安、ストレスを抱えている人は少なくありません。(前編)そこで、「子供を授かりたい夫婦の未来をともにささえる社会をつくる」というビジョンを掲げ、妊活の問題に医療・夫婦関係の両面から取り組んでいるのが、2015 年 6 月 に設立された株式会社ファミワンです。ファミワンの創業者兼代表取締役である石川勇介さんに、妊娠したい女性を支えるパーソナルサポートサービス「FLIPP(フリップ)」の内容や今後の展望、起業の背景にある課題意識を中心にお聞きしました。 


――ファミワンの起業の背景についてお聞かせいただけますか。

起業のきっかけは自分自身の妊活の経験です。妊娠に向けてどんなステップを踏めばいいのか、妊活についての悩みや不安を誰に相談すればいいのか、夫婦ともにわかっていませんでした。そんなとき、個人の状況に合わせた適切なサポートを受けることができ、夫婦同士が話し合えて、医療の専門家などからアドバイスや支援が得られるシステムがあればいいのに、という課題意識を抱くようになりました。また、当時は医療従事者向け専門サイトを運営する企業で新規事業開発を担っていましたが、色々なアイデアを検討する中で、自分の原体験に裏づけられたサービスを世に出したいという思いが強まり、それを実現するために起業という選択肢を選びました。 

――妊娠に向けて心身を整えたい女性を個々のライフスタイルに合わせてパーソナルサポートするサービス「FLIPP」 β 版の提供を開始されました。サービスの概要をお聞かせいただけますか。

FLIPPは妊娠に向けて心身を整えたい女性、妊娠を願うカップルをサポートするという、パーソナルサポートサービスです。ネットの普及により、妊娠や妊活にまつわる情報は山のようにあふれています。病院選びや検査の内容、お金の問題など、扱うテーマもさまざま。ですが、「どの情報を信じればいいかわからない」、「そもそも今の自分の状態にふさわしい対策は何なのか」。こうした悩みを抱えている女性が数多く存在します。 そこでFLIPPは無料で「妊娠力診断」を行い、個人の状態を適切に分析します。有料の会員へは、月に一度、妊娠するうえで役立つサプリや食品、評価の高い書籍などをパッケージ化してお送りしています。妊娠に向けたライフスタイルの改善を、バランスよく、そして効率よく始められるようサポートしています。 

――診断のアドバイスはどのようなものでしょうか。

そのアドバイスのもとになるのは、先ほどの「妊娠力診断」の結果です。食事・運動・夫婦関係・ストレス・習慣という5つのカテゴリーを設け、約100項目の質問にオンライン上で回答してもらい、ユーザーの妊娠力を算出します。FLIPPの質問項目やアドバイスの内容については、聖路加国際大学の川元美里先生に監修をお願いしています。 こうした個別の結果をもとに、改善アドバイスの提供、FLIPP認定カウンセラーによる治療案内や情報提供、相談サービスなどを行っています。現在、東京大学の山崎俊彦先生とも共同研究を進めているのですが、今後はデータに基づく解析を強化し、「例えば、食事でこういう点を改善すると、何パーセントの確率で、妊娠するまでの期間がこれだけ改善される可能性がある」といった形で示していく予定です。もちろん、ユーザーの年齢や妊活に取り組んできた年月などによっては、ホルモン値や卵巣年齢などの検査や不妊治療を促すこともあります。医療機関とも連携しながらより多くのデータを収集し、アドバイスの精度を高めていきたいと考えています。 

――こうしたサービスによって解決したい課題は何ですか。

解決したい課題は、妊活中の夫婦が、自分達の現在地の把握ができていないという点です。妊活の情報が今の自分に合ったものなのか、どれを信じて取り組むべきなのかを自分で判断するのは難しいですよね。「妊娠したいなら、こういう食べ物がよい」とか「冷え症の対策が必要」といった、ある特定の断片的な情報にのめりこむあまり、ほかに意識しておくべき生活習慣や、夫婦で話し合っておいたほうがいいことがなおざりになっているケースも少なくありません。 もちろん、「これをすれば必ず妊娠できる」という絶対的な方法はありません。ですが、妊娠したいと思うのなら、加齢によって妊娠率が下がるというデータがある以上、まずは早くに病院に行って自分の状態を知っておくほうがよいでしょう。そして、医療機関での検査や治療だけでなく、食や運動、睡眠など、日常の生活習慣を改善していくことも重要です。こうした改善策を個別に推奨することで、妊活・不妊治療のパーソナライゼーションを進めていきたい。 また、不妊治療について夫婦できちんと話し合えていないという、家族関係に関わる問題もあります。FLIPPの診断結果が、夫婦の率直なコミュニケーションのきっかけになってほしいと考えています。 

――バイエル薬品や森永製菓アクセラレーターなどの受賞、日経新聞などのメディア掲載など、ファミワンのサービスが注目されている理由を教えてください。

不妊治療は時間や金銭的な負担だけでなく、身体的・精神的負担を伴うことも多く、夫婦は様々な悩みを抱えています。しかもその一方で、妊活の悩みはあまり表立って話しにくいという空気がまだまだ日本にはあります。それを社会課題と捉え、夫婦の悩みに寄り添える世の中に変えたい。そして個人の体験談や噂ベースの情報に頼ってしまっている現状を変えたい。この想いとそのための取り組みを評価してくださっているからかもしれません。専門家の知見などの科学的な裏付けに基づいた、「妊娠に近づくためのレコメンドやアドバイス」を気軽に得られる社会にする。こうした構想に社会的意義を見出してくださっているのではないでしょうか。 

――FLIPPの開発において、どういった工夫をしていますか。

スタートアップはヒト・モノ・カネというすべてのリソースが枯渇しているので、多くの方々の協力を得ることがとても重要です。日々痛感しています。その中で意識しているのは、全てを自社でやろうとするのではなく、医師、薬剤師、不妊症看護認定看護師、不妊カウンセラーなど、専門家の知見をつなげていくことです。 

――専門家とのつながりを築くうえで心がけていることはありますか。

ファミワンの理念や事業内容、今後やりたいことをお話しながらも、相手がどんな課題意識をもっているかを深くお聞きすることを大事にしています。課題意識やビジョンで重なる部分があれば、今すぐ現実的に協働することにならなくても、「将来的にこういう形で協力しあえるかも」というのを確かめ、未来の協力者を増やしていくというようにしています。知人から紹介されるケースもあれば、問い合わせフォームで自ら連絡をとるケース、キーパーソンから信頼できる専門家を紹介してもらうケースなど様々。今後はクリニックなどの医療機関とも共同研究や連携をいっそう強化していきたいと考えています。 後編につづく