研究開発のAirbnbへ、実験機器のシェアリングプラットフォーム(後編)

研究開発を民主化し、誰もがやりたい実験を行える世の中を作る」。こうしたビジョンのもとに立ち上げられたのが、実験機器・技術のシェアリングプラットフォームCo-LABO MAKER(コラボメーカー)です。SBメディアホールディングスとギルドワークス共催のインキュベーションプログラム「MVPアワード」では最優秀賞受賞を、そして革新的科学技術の事業化を支援するシード・アクセラレーションプログラムであるBRAVEでは、TECH LAB PAAK賞を受賞されています。代表の古谷優貴さんは、大学時代に2つの研究室を経験後、大手総合化学メーカーで半導体関連の研究開発に従事。2017年4月に Co-LABO MAKERを立ち上げ、現在は東北大学・東北大学発ベンチャーC&Aに所属し、単結晶成長技術に関する研究開発を行っています。前編では、Co-LABO MAKERの背景にある古谷さんの課題意識や、サービスが高く評価された理由をテーマにお聞きしました。後編では、シェアリングサービスが日本でどう広まっていくのか、古谷さんが気になる動向にスポットライトをあてています。


(前編はこちら) ――総合化学メーカーでは材料系の研究開発や事業開発に携わりながら、現在は大学・大学発ベンチャーに勤めながら、事業化を進めていたとお聞きしました。会社員のまま起業をめざす方にとって大きな目標になると思います。並行で行うことのメリットは何でしたか。会社員と、サイドプロジェクト的な起業という二足の草鞋を履くメリットは、事業化をめざすにあたって「気負いすぎなくていいこと」だと考えています。もちろん、退路を断って背水の陣を敷くことで、コミットメントは高められるでしょう。ですが、新しいものを生み出すプロジェクトにおいては、フェーズによってあるべき姿が違うと思っていて。アイデアの種に本当にニーズがあるのかを試行錯誤しながら探っていく最初の段階では、家族のいる身ということもあり、安定してお金を得られる基盤があることはプラスに働きました。 もう一つの大きなメリットは、自分たちのサービスのユーザーがいる職場に身を置くことで、ユーザーの事情を詳しく知れること。デザイン思考でユーザー観察の手法として位置づけられる「エスノグラフィー」みたいなものですね。東北大学の先生方のネットワークなどを通じて、「この件ならあの人に聞くといい」といった情報が得られます。転職前は大企業の研究開発の現場を、そして今はベンチャーと大学というように、Co-LABO MAKERのユーザーいずれの立場も経験しているという点で優位に立てているのかなと。もちろん、両者のそれぞれの立場に限られたリソースをどう振り分けるのか、集中力を維持するのか、大変な面もありました。遅くまで活動してカバーしようとすると、今度は家族にしわ寄せがいってしまう。いかに家族の理解を得ながら子育てをはじめとする家族の時間を確保していくかも、試行錯誤している真っ最中です。 ――古谷さんのお話をお聞きしていると、純粋に研究や開発が好きというのが強く伝わってきます。研究開発って、答えのない新しい挑戦において「こうすると、こうなるんじゃないか?」という仮説を組み立て、実証していく。仮説と実証結果がある程度一致していると嬉しいですし、逆に良い意味で期待を裏切るような結果が出ても、その理由を解明するのが面白い。以前は研究開発って専門分野が限られすぎていて、つぶしが効かないのではないかと思っていたこともありました。ですが、研究開発ってリーンスタートアップの流れと非常に似ているんです。要はどちらも未知のことに仮説検証をくり返していくことですから、研究開発のプロセスをうまく回せること自体が、想像以上に汎用的で価値あることなのだと気づきましたね。 ――たしかに両者は非常に似ているプロセスですね。シェアリングサービスは、今後どんな形で日本に浸透していくと予想していますか。日本では、まだまだシェアリングサービスは広まっていないですよね。中国の都市部では自転車のシェアリングサービスが一般化しているのに比べると、日本ではAirbnbという言葉自体、知らないという人もいますし。ですが、今後あるときを境に一気に浸透するというよりは、自然と広まっていくのではないかと予想しています。Eコマースを例にとりましょう。Amazonや楽天などのサイトができた当初は、クレジット番号などの個人情報をサイトに登録することに不安を覚えて、手を出さなかった人も少なくなかった。ですが今や、たいして疑問をもつことなく、サイトやアプリのサービスを利用するのに個人情報を登録するのが日常の風景になってきていますよね。シェアリングサービスも、これと同じように自然と、しかし着実になじんでいくんじゃないでしょうか。 ――そうした未来に向けて、古谷さんが注目している日本の動向はありますか。2016年からオープンイノベーションの動きが急激に加速していて、あらゆる業界のアクセラレーターが増えてきたことですね。大企業、ベンチャー、大学が共創していかないと、日本は世界で太刀打ちできないという空気ができたからだと思います。また、「01Booster(ゼロワンブースター)」、「Creww(クルー)」のように、オープンイノベーションプラットフォームが増えてきたことも後押しになっているといえるでしょう。とはいえ、追い風は吹いているけれど、まだまだ風速が弱すぎるという危機感を抱いています。オープンイノベーションの動きが出遅れているという課題に切り込んで、研究開発を活性化させる。これこそがCo-LABO MAKERの担うべき役割だと考えています。 ――最後に、古谷さんの今後の構想を教えてください。直近の目標は、2017年の夏にはサービスを正式リリースして、今いる東北の地の利を活かしつつ、日本全体へとしっかり広げていくこと。中長期的には、Co-LABO MAKERをインフラという形で根付かせながら、対象範囲を広げていきたいと考えています。例えば現在は大学やスタートアップなど、何らかの組織が使う側・提供する側のユーザーとなることを想定していますが、いずれは、フリーランスの研究者にも利用してもらいたいなと思っていて。研究室をもっていなくても、独立して複数の研究開発やオープンイノベーションのプロジェクトに関わるという働き方や、こうした働き方をコーディネートするという新たな職業が生まれていくムーブメントをつくりたいですね。大企業にいると、さまざまな制約によって自分のやりたい研究ができない――。そんなフラストレーションを感じていた身としては、就業時間以外に自分の好きな研究・開発などを行う「闇研究」、そこから生まれる「闇イノベーション」を活発化させることにも寄与したいと思っています。 ――リリースを楽しみにしています。貴重なお話をありがとうございました!