「体験」をデリバリーする、VRイベントプラットフォーム cluster.(前編)

~累計2.6億円の資金調達に成功した秘訣に迫る~VR元年といわれた2016年。Oculus Rift、HTC VIVE、PlayStation VRといったヘッドマウントディスプレイが次々に登場しました。VRの特徴は、何といってもその強烈な没入感にあり、ゲームやエンターテインメントの領域を中心とし、現在では建築や医療など活用領域が広がっています。そんななか、「ひきこもりを加速する」という斬新なコンセプトのもと、注目を集めているのが、VRソーシャルアプリ「cluster.」を手がけるクラスター株式会社(https://cluster.mu/)。エイベックス・ベンチャーズ、ユナイテッド、DeNA、Skyland Venturesおよび個人投資家から累計2.6億円の資金調達に成功しています。今回は、クラスター株式会社CEOの加藤直人さんに、cluster.の開発秘話とともにVRの「体験価値」に着目した背景をお聞きしました。資金調達に成功した理由は何だったのでしょうか。後編では、どのように起業の壁を乗り越えたのか、VRとARの応用範囲の違いとは何かといったテーマをお聞きします。


―cluster.とはどのようなサービスでしょうか。

cluster. とはライブの熱量を保ったまま、オンライン上からアバターでイベントに参加できるプラットフォームのこと。ヘッドマウントディスプレイのようなVRの専用デバイスだけではなく、スマホやPCなどからもアクセスできるVRイベントルームです。ルームを作成しURLをシェアすれば、数百~数千名のユーザーが同時にイベントに参加することができます。イベント主催者の指定するユーザーはルーム内でトークでき、スライドなどもスクリーンに投影することが可能ですし、一般の参加者は、コメントや拍手といったアクションで、場を盛り上げることができます。2017年5月に正式版をリリースしてからは、様々なイベントを開催されており、8月にはバーチャルアイドル事務所「岩本町芸能社」が究極の理想的存在VRアイドルのプロモーションイベントが開催されました。  

―面白いイベントですね。日本でVRスタートアップがなかった数年前から、VRの技術に趣味で開発をしていたとお聞きしました。それを事業のアイデアの核に据え、cluster.を開発するに至った経緯を教えてください。

VRに興味をもったのは、「体験」を“デリバリー”できるという性質に大きな可能性を感じたことです。インターネットは「情報」のやりとり、つまり大量のデータを高速で収集し、共有するという点では革命をもたらしました。その情報のやりとりを行うインターフェイスが、PCやスマートフォンです。現在はSNSやメッセンジャーアプリでどこでも人とつながれるし、Amazonや出前サービスUberEATSなどを使えば、ほしいものが簡単に購入できる。起業前はリモートの受託をやりつつ、約3年間ひきこもり生活を送っていましたが、不便に感じることは特段なかったんです(笑)ただ、「あのイベントに参加したい」「好きなアイドルのライブに行きたい」というニーズはネットでは満たせない。出不精な私は、会場まで移動するのも億劫に感じていて。いくらストリーム配信やGoogle ストリートビューなどの技術が発展しても、その場ならではのライブ感や熱量を伴った「体験」を味わえないことに、もどかしさを感じていました。そんなとき、ヘッドマウントディスプレイをかぶる機会がありました。そこに広がる世界はまるでライブ会場にいるかのように鮮烈で、感動を覚えました。そこから「VRによってエクスペリエンス(体験)を“デリバリー”するサービスをつくりたい」と考えるようになったんです。当時はVRのデバイスの製品版も出ていない段階でしたが、「VRは必ずくる」という確信めいたものがありました。  

―VRの黎明期に、VRが生み出す体験価値に注目していたのですね!

実は音楽業界ではCDの売上が低迷している一方で、フェスやコンサートなどのライブ市場が成長を続け、2013年にはレコード生産をライブ・コンサートが上回るという市場規模の逆転が起きています。この事実から読み取れるのは、「リッチな体験」に対する価値が高まっているということ。もちろんskypeやZOOMのように、遠隔でもリアルタイムでコミュニケーションをとれるツールはすでに存在します。ですが、ライブの「一体感」、現実世界での人と人との距離感を再現するという点では、VRに軍配が上がります。  

―エイベックス・ベンチャーズ、ユナイテッド、DeNA、Skyland Ventures、個人投資家の方々からシリーズAラウンドで2億円を資金調達され、2017年夏時点で累計調達額は2.6億円に到達したとのこと。資金調達に成功した要因は何でしたか。

背景には、スマホの市場が成熟したことがあると思っています。スマホ以外に大きな期待感のある領域に投資したい、というニーズが高まっているのだと。そのうえで大型の資金調達にこぎ着けるには、「このサービスにワクワク感があるか」という点が重要だと考えています。市場がありスケールが見込めることは前提ですが、たとえ失敗確率が高くても、大きな成功が見込めるかどうかをVCは重視しています。資金調達は3回行いましたが、最初からいきなり調達に成功したわけではありません。1回目は会社創立前、サービスの具体的な中身すら決まっていなかった頃に、VCの方が過去の私の開発したプロダクトなどを見て、連絡をくださったんです。今後の構想などを話すうちに、「会社をつくればいいのでは」という言葉が起業の後押しになりました。その後は、複数のVCにプレゼンをする中で、伝え方をブラッシュアップする日々。どんな戦略と実行計画のもとに資金を集めているのか。その使途はどのようなものか。これらを具体化し続けてきました。あとはやはり、起業家の「情熱」がモノを言うとも思っています。自分たちのサービスがどんな価値を社会に提供していくのか、それが未来をどう変えるのか。こうした展望を、起業家自身が誰よりも自信を持って伝えることが、資金調達はもちろん仲間集めにおいても重要になります。  

―人の心を動かすには起業家の「情熱」が重要なのですね。

―エイベックスやDeNAとの提携では、どのような事業シナジーをめざしているのでしょうか。

どういうVRコンテンツをcluster.上にのせるといいのか。これを考えたときに、スポーツの試合、カンファレンス、そしてライブ・コンサートの3種類がありました。中でも音楽ライブ・コンサートが3000~3500億円規模といわれています。中でも、こうした新しいテクノロジーへの関心が強い若者が集まりやすいのは、ライブ・コンサート。リアルなライブは今後も健在だと思いますが、5年後、どんなに長くとも10年後を見据えると、ライブ・コンサートの5~10%がバーチャル上に置き換わるのは普通に予測できる。そのインフラ的なプラットフォームをcluster.が担えないかと考えたわけです。この観点に立った時、アーティストやアニメ、2.5次元アイドルなどの多彩なコンテンツをもつエイベックス、ネットアイドルのライブ配信サービス「SHOWROOM」を子会社とするDeNAとの提携で、強烈な一体感、共感を生むサービスに挑戦できると考えました。 (後編につづく)