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ソーシャルセクターをテクノロジーで支える。新たなマーケットの開拓者(前編)

NPO、ソーシャルベンチャー向けのITコンサルティング事業を主軸とする株式会社カルミナ。ソーシャルセクターのテクノロジーカンパニーという、日本では未開拓の分野にまい進する安藤昭太さんにお話を伺いました。前編では、どんな課題意識のもとに会社を立ち上げたのかという経緯や、自社のシステムを活用して社会課題の解決に寄与した事例について取り上げます。


ando-e1473920938646-150x150ソーシャルセクターのIT支援に対する課題意識は、どんなきっかけで生まれたのですか。
安藤昭太さん(以下、安藤):ソーシャルセクター自体への興味の根っこは、子ども時代にさかのぼります。小学生の頃から、阪神大震災で孤児になった子たちに、おもちゃの在庫をプレゼントするなど、ボランティアには馴染みがありました。大学時代も、国際学生協会という国際協力団体のスタディーツアーに参加し、色々な国でホームステイをしていました。その一環でフィリピンを訪れたとき、富裕層の家と貧困層の家の両方に1週間ずつ住むという強烈な体験をしたのです。「生まれた環境次第で、こんなに生活が大きく違うのか」と、大きな衝撃を受けましたね。それ以来、途上国の経験格差をはじめ、社会課題の解決に興味を持つようになったんです。

とはいえ、大学を卒業する2006年当時には、新卒でNPOに就職するという選択肢は一般的でなく、「インターネットの時代が来ているし、ITのスペシャリストになろう」と思い、富士通に入社し、一からプログラミングを学びました。

本業の傍らNPOに参加し、今でいうプロボノを始めたきっかけは、カンボジア旅行に行って、学生時代に抱いた夢が再燃したことや、結婚して週末に時間のゆとりができたことでした。とあるNPOのボランティアをしていると、たまたま、「システムを導入する」という話が浮上しました。ITの専門性を活かしてシステム構築を行ったところ、非常に感謝されて。他のNPOの人たちからも依頼が舞い込み、さまざまな団体のシステムまわりをお手伝いする中で、この分野に大きなニーズがあると肌で感じました。そこで、2015年4月に仲間とMake it Better というNPOを立ち上げました。ですが、本業の合間、週2くらいの時間でやれることには当然、限りがあります。ソーシャルセクターをテクノロジーで支える事業に専念しようと決心し、同年10月に株式会社カルミナを設立しました。

 

株式会社カルミナの事業内容について詳しく教えていただけますか。
安藤:主に「ITで既存業務の効率化をめざす事業」と、「ITで新しい価値を生み、課題解決に寄与する事業」の2軸があり、現在は前者が収益の柱になっています。ソーシャルセクターでは、それほどIT化が進んでいない団体が多いので、業務効率化が最初の関門になってきます。具体的には、Webサイトからの問い合わせやイベント申し込みの管理システム、寄付決済システム、寄付者管理システムなどを行っています。

 

社会課題の解決に御社のITサービス活用した事例について、ぜひお聞きしたいです。
安藤:一番印象に残っている事例としては、インドの子どもが売られる問題の解決に取り組んでいる、認定NPO法人「かものはしプロジェクト」との連携プロボノプロジェクトが挙げられます。最初、かものはしプロジェクトの方々から、「インドでは、州をまたいで人身取引が行われているが、警察の捜査は州の管轄エリア内だけで行われているため、州をまたいだ情報交換は警察レベルでもNGOレベルでも希薄で、加害者はほとんど逮捕されない。しかし、現地のNGOの人たちは、この問題に現場で地道に取り組む中で蓄積してきた貴重な情報をたくさん持っている。ただ、それぞれの団体ごとに手書きなどでバラバラに管理しているため、問題解決にうまく活かされていない。これらの情報を一元管理、分析して問題解決に有効活用するため、ITツールをうまく使えないだろうか」という話を聞きました。一元管理システムなら、技術的に複雑なわけではないし、2、3カ月あればできるとわかり、すぐに構築に取りかかりました。

 

そのような根深い問題があったのですね。
安藤:システムが稼働してから、1年半が経ちました。システムを通じて、現場の情報が即時に別の州のNGOとも共有できるようになり、州をまたいで起きている被害に対して、NGO同士が連携して解決に取り組みやすくなったそうです。また、このシステムの導入によって被害動向や、捜査フローや被害者の回復フローで何が起きているのか簡単に分析できるようになり、それを政府関係者との対話に使って具体的に状況改善策を検討できるようになったことで、活動に大きく役立っているそうです。自分たちのつくったシステムが、人身売買のような難しい問題の解決にも活かされていると思うと非常に嬉しいですし、他の社会課題解決のプロと連携すれば、より多様な活かし方があると考えています。

 

それは素晴らしいですね……! これほどソーシャルセクターにシステムのニーズがあるのに手つかずのままだったのは、何が障壁になっているからなのでしょうか。
安藤:ソーシャルセクター向けのシステム構築やITソリューションというマーケットの存在が認知されていないことが大きな原因だと考えています。私自身、起業するときには本当にマーケットがあるのかと、不安を感じていましたから。あとは、ソーシャルセクターでITに積極的に投資している事例がまだまだ少ないので、ニーズが顕在化しづらかったのでしょう。ITといっても、かろうじてエクセルを使っているという団体も多いのが実情です。

ITへの投資の意識が薄い原因は、2つあると思っています。1つ目の原因は、NPOが主に寄付金で運営しているので、「ITに投資する余裕があるなら、困っている人たちに送金したほうがよい」などと寄付者からの圧力がかかるからです。本来はシステムの導入で、将来的にはこれまで以上に効果的に貢献できるのに、NPO側もそれをうまく説明しづらいのです。民間企業なら「将来のための投資」は当たり前のことなのに、ことNPOとなると、その発想がないがしろにされてしまっています。

そして2つ目の原因は、ソーシャルセクターにITの専門家が不足しているからです。「こういうシステムを導入するには、いくらかかるのか」といった相談相手もいなければ、判断材料もない。だからこそ、カルミナが「ソーシャルセクターを対象にしたITソリューションの分野でも儲かる」ということを示す先端事例になればと思っています。この事例が世の中に広まり、新規参入者を増やすことが目標です。

 

(後編につづく